本物を追求する人々

2015.02.01 Update

日本が昔から続けてきた徒弟制度や、職人魂というものをもう一度、見直す必要がある・・・

神奈川県横浜市/(有)秋山木工  秋山 利輝

1943年奈良県生まれ。有限会社秋山木工代表取締役。
中学卒業とともに家具職人への道を歩み始め、
1971年に秋山木工を設立。
秋山木工の特注家具は、迎賓館や国会議事堂、
宮内庁、有名ホテルなどでも使われている。
スパルタ教育で職人を育てる独特の研修制度でも
注目を集めており、テレビや雑誌の取材も多い。

 

一流の仕事をするには一流の心が必要

時代がどんなに変わっても、変わってほしくないもの。それは「心」だ。効率化やスピードばかりが要求される今の時代においては、マニュアルや技術が重要視されがちだが、技術だけを磨いても人を感動させることはできない。
「職人の世界でいえば、そんな職人が21世紀に生きる道はありません」と秋山社長は言う。
しかし、歌舞伎や落語など、ごく一部の伝統芸能の世界でしか残っていない徒弟制度に、秋山社長はなぜこだわり続けるのだろうか。「歌舞伎や落語が今でもその制度を採用しているのは、技術を習得するだけでは、演じる物語の本当の世界観を表現できないからです。住み込みで24時間、寝食をともにし、師匠や兄弟子に徹底的に指導され、人間的に成長しなければ、表現できないことがあるのです。
木工職人も同じです。一流の職人になるためには技術はもちろん、人間的にも成長し、一流の心を身につけなければいけません。技術を磨くとは、人間性を磨くこと。秋山木工の評価基準は、技術力が40%、人間性が60%。
私がつくりたいのは〝できる職人〞ではなく、一流の〝できた職人〞なのです」
では、〝できた職人〞とは?「不測の事態が起こっても、堂々と自信を持ってその場を乗り切れる判断力。お客様とスムーズに話せる会話力。家具や材質について、お客様を感動させる物語や歴史をお話できるプレゼン力。
それができるようになるには十分な知識と経験が必要です。また、きちんとした言葉遣いができることも重要です。そういったことを短期間に身につけるには、やはり徒弟制度が一番いいのです。24時間一緒にいれば、親方や兄弟子が何をどうやるか常に観察できるし、技を盗むこともできる。この仕組みなら私たちが持っている技術と心をすべて教えられるのです」

 

丁稚に課す10のルール

自己紹介がきちんとできないと入社できない
名前・出身地・卒業した学校・家族構成・8年後の自分の姿・なぜ秋山木工に就職したのか・将来の目標。
完璧に言えるまで何度でも練習する。

 

●DSC_6122

 

入社したら男も女も全員坊主になる
丸坊主になるのは、これから始まる4年間の厳しい丁稚修行に身を投じる覚悟を決めるため。
秋山木工の入社ルールとして30年間続いている。

 

携帯電話は禁止。連絡手段は手紙だけ
携帯で話すのはもちろんメールも禁止。代わりに手紙を書く。
文字を書くことも訓練の一つ。お客様に礼状一つ書けなくては仕事が務まらない。

●DSC_6089

 

家族と会えるのは、盆・正月の帰省時のみ
自ら選んだ道とはいえ、二十歳前後の若者たちが親に会えば里心がついてしまう。
仕事に集中し、修行生活に慣れるためには心の緩みは禁物だ。

 

親からの仕送り・小遣いは禁止
職人の命である道具は苦労して稼いだ給料で買う。
研修期間は薄給だが、親に買ってもらえば道具を大切にする〝心〞を失うことになりかねない。

●DSC_6141

 

研修期間は、恋愛は絶対禁止
恋愛が発覚すれば即刻クビ。一生の技を身につけるため、
4年間は一流の職人になること以外は考えずに、プライベートは捨てて修行に専念。

 

起床は5時前、マラソンからスタート
マラソンは毎朝、全員参加で行われる。町内をぐるりと一周、約15分かけて走る。
気が引き締まり、みんなで一緒に走ることで連帯感も養える。

 

食事はみんなで作る。好き嫌いは一切禁止
朝食は秋山社長以下、丁稚が総勢20人集まって食べる。食べ物の好き嫌いは仕事の好き嫌いに通じる。
そのためにも苦手をなくすことが大切だ。

●DSC_6033

 

事はじめは、掃除から
朝食後、町内を清掃してから仕事を開始する。
日頃、木を切る機械音で近所に迷惑をかけているお詫びから始めたが、反対に町から表彰された。

 

朝礼で職人心得30箇条を唱和
職人心得30箇条は秋山木工の社訓。一流の職人とはどんな職人なのかをいつも忘れず、頭に置いておくため、毎朝必ず全員で唱和する。

 

職人心得30箇条

1、挨拶のできた人から現場に行かせてもらえます
挨拶はコミュニケーションの第一歩です。
また、人との信頼関係を築いていく上で大切です。

2、連絡・報告・相談のできる人から現場に行かせてもらえます
常に報告、連絡、相談を行うことにより、指示を出してくれた方に安心していただき、
何かあったときにすぐに対処することができます。

3、明るい人から現場に行かせてもらえます
明るい職人さんのまわりには人が集まり、仕事がいただけます。

4、まわりをイライラさせない人から現場に行かせてもらえます
お仕事はチームプレーです。集団行動の中で人をイライラさせないためにはまわりに合わせ、
協調性のある行動をとることが大切です。

5、人の言うこと正確に聞ける人から現場に行かせてもらえます
指示された内容を正確に理解し、素直に行動することが大切です。

6、愛想よくできる人から現場に行かせてもらえます
いつも愛想よくしていることにより、まわりの方に気持ちよく作業していただけます。

7、責任を持てる人から現場に行かせてもらえます
仕事に失敗は許されないので、緊張感を持ち、仕事を最後までやり抜くことが大切です。

8、返事をきっちりできる人から現場に行かせてもらえます
わかっているのか、いないのか、意思表示をすることにより仕事のミスをなくします。

9、思いやりのある人から現場に行かせてもらえます
相手のことを自分のことのように考え、行動できることが大切です。

10、おせっかいな人から現場に行かせてもらえます
人の幸せだけを願い、行動できることは大切です。

11、しつこい人から現場に行かせてもらえます
人間の限界を決めず、技術も人間性もとことん追求していくことが大切です。

12、時間を気にできる人から現場に行かせてもらえます
時間はお金より大切なものだと言われています。
もたもたしている人は一流の職人になることはできません。
また、時間を守ることで相手から信頼していただけます。

13、道具が整理されている人から現場に行かせてもらえます
いつお仕事をいただいてもすぐ取りかかれるようにしておくことが大切です。

14、お掃除、片付けの上手な人から現場に行かせてもらえます
仕事の最後の仕上げであり、次の仕事の段取りでもあるので大切です。

15、今の自分の立場が明確な人から現場に行かせてもらえます
自分の立場をわきまえることにより、常に謙虚でいられます。

16、前向きにことを考えられる人から現場に行かせてもらえます
後ろ向きに考えていては前に進めません。これから自分がどうなりたいのか、
そのためには何をすべきなのか考え、行動することにより、日々成長していけます。

17、感謝のできる人から現場に行かせてもらえます
人は一人では生きていけません。常にまわりの方に支えていただいていることを感謝し、
その感謝を行動に移せることが大切です。

18、身だしなみのできている人から現場に行かせてもらえます
社会人の最低限のマナーであり、身だしなみを整えることで
気持ちよく安全に家具をつくることができます。

19、お手伝いのできている人から現場に行かせてもらえます
まわりをよく見て、人が何をしてほしいのか察知して動けることが大切です。

20、自己紹介のできる人から現場に行かせてもらえます
自己を見つめ直し、相手に自分を知っていただくことが大切です。

21、自慢のできる人から現場に行かせてもらえます
お客様のために、どのようなものを、どう工夫したのか説明できることが大切です。

22、意見が言える人から現場に行かせてもらえます
意見を出し合うことで、いいものを素早くつくることができます。

23、お手紙をこまめに出せる人から現場に行かせてもらえます
親には近況報告をし、こまめにお礼状を書くことにより、人の輪が広がります。

24、トイレ掃除ができる人から現場に行かせてもらえます
一番汚れる場所を磨くことで、自分の心も磨かれます。

25、道具を上手に使える人から現場に行かせてもらえます
道具を自分の手足のように使えることで、
お客様に感動していただける家具をつくることができます。

26、電話を上手にかけることができる人から現場に行かせてもらえます
相手の顔が見えない分、簡潔にわかりやすく伝えることが大切です。

27、食べるのが早い人から現場に行かせてもらえます
食べることにも段取りが必要です。
集中しておいしくいただく癖をつけることで、仕事の効率も上がります。

28、お金を大事に使える人から現場に行かせてもらえます
丁稚見習いたちは、秋山学校からの奨学金と実家からの仕送りで生活しています。
お金が生まれる過程を正確に理解し、大切に使うことで感謝の気持ちを表せます。

29、そろばんのできる人から現場に行かせてもらえます
頭の回転や計算を早くすることで、仕事の効率が上がります。

30、レポートがわかりやすい人から現場に行かせてもらえます
その日学んだことを頭の中で整理し、
わかりやすく書こうとすることで、もう一度身に付きます。

 

●DSC_6117

 

本物の人材教育が若者の心を変える

秋山木工は、そのユニークな社員育成制度でマスコミからも注目されている。年に一度の「技能五輪」家具部門で丁稚がメダルを取り続けるなど、技術力の高さにも定評があり、取引先はエルメス、シャネル、グッチなど世界の超一流ブランドばかり。わずか数年で普通の若者が一流の家具職人に生まれ変わると、企業、政府機関、海外からも視察や取材が絶えない。
今どきの若者が厳しい丁稚制度についていけるのかという声もあるが、年々、秋山木工の門をたたく若者は増え続け、定員の10倍を超える応募希望者が全国からやってくるという。国立大学や有名私立大学を卒業した人、すでに社会人を経験した人、女性の希望者も多い。
現在29歳、4年半の丁稚修行を終え、晴れて職人になったばかりの森聡美さんもその一人だ。
大学を出たあと、デザインの勉強をするため専門学校に通ったが、机に向かって仕事をするより、体を動かしてものづくりを実感できる職人のほうが自分に向いていると感じ、就職課にすすめられた秋山木工の門戸をくぐった。
「最初はきつくて、何度もやめたいと思いました。納品一つとっても、女性の体力で重たい家具を安全に運ぶのは思った以上に大変で、コツをつかむまで社長や兄弟子に何度も怒鳴られながら、一つ一つ仕事を覚えていきました。毎日、スケッチブックにその日やった仕事の何がうまくいって、何を失敗して、何を学んだか。同じ失敗をしないためには何を改善すべきかを書くのですが、そのレポートの書き方すら先輩たちにダメ出しされて、落ち込むこともありました。
でも、怒られるには必ず理由があるんです。自分より下の子たちが入って、それがよくわかりました。それに、自分が深く理解していないと人にも教えられないということも。教えることが学ぶことになるんですね。入社当時は丸坊主にして男性と間違われ、女子トイレに入りづらい時期もありましたが、今となってはいい思い出です(笑)」
それにしても、秋山木工にいる若者はみな謙虚でありながら堂々としている。丁稚1年目の今鷹栄江さんは次のように語ってくれた。
「自分は技術面で同期より遅れているとレポートに書いたところ、兄弟子から、『技術は繰り返し練習すれば自然と身につく。今は心を学ぶ時期です』とコメントが書かれていました。
私はまだ感謝が足りず、そのせいで相手に失礼なことをしてしまうことがありますが、将来、目の前にいるお客様の一番望むもの、喜んでいただけるものをつくる職人になることを目指しています。そうなることで、親にも恩返しができると考えています」
8年後には全員がここを巣立つが、自分の工房を開き、世界をまたにかけて活躍する人も多いという。若者たちをそこまで変えてしまう秘訣は何かといえば、〝この人間を一流の職人にしたい〞とリーダーが本気で思っていることだろう。人を育てることが難しいと言われる今の時代、裏を返せば、多くのリーダーが、世の中に必要な人材ではなく、自分に忠実な部下を自分の都合だけで育てようとしているのかもしれない。
使い捨てではない本物の人材教育が、再び日本を成長させるきっかけになるのではないだろうか。

 

●DSC_6151

 

利他の心を持った職人の時代がきている

「もともとは会社経営なんてしようと思っていなかった」と秋山社長。
しかし、27歳で商売を興し、丁稚制度でコツコツ人を育てようと決意したのは、「21世紀は昔ながらの利他の心を持った〝できた職人〞が必要になる」と確信をもったからだ。それから約35年、世の中がそこにようやく気づき始めたとき、秋山木工は人材育成のノウハウを蓄積し、誰も追いつくことができない地点まで到達していた。「遠回りをしてきましたが、とうとう大舞台の順番が回ってきたのです。
しかし、みんなに追いついてもらわないと世の中全体がよくならない。ハイスピードでこのやり方を広めていかなければと思っています。そのための学校制度もあらたにつくりました。家づくりも、今後は昔ながらの風通しのいい家、呼吸する家が求められていくでしょう。プラス、最新技術も付加して人への優しさを追求したのが、澤田升男さんの提唱する『神様が宿る家』だと思います。
澤田さんもまた時代のキーマン。彼の本気と覚悟が、住宅業界そのものを変えていくかもしれませんね」

 

●DSC_6105

 

●DSC_6107

 

有限会社 秋山木工
神奈川県横浜市都筑区荏田東町4394
☎045-911-8020(代)

http://www.akiyamamokkou.co.jp/